passcape’s blog

ゲーム開発、イラスト制作、日々の出来事。

捨てられていたスーツを、今も思い出す という話

f:id:hnagasaki:20210805202423j:plain


こんばんは、ながさきです。

 

2021年8月。昼間になればセミの声はうるさいほど鳴り響き、刺すような日差しが気力を奪うような。そんな季節になりました。

 

この時期になって思い出すのは、去年の同じような真夏の日に、川辺の草むらに捨てられていたスーツのことです。

多分、用事があってどこかへ出かけた後の帰り道のことだったと思います。よく通る道の生い茂った草むらの中に、スーツの上下と白いワイシャツが、大きな紙袋にぶち込まれて無造作に投げ出されていました。新品同様のように見えるほどきれいな状態で、使えなくなったから捨てたというよりは、要らなくなったから捨てたという感じでした。

特に隠すでもなく乱暴に捨てられていたスーツ一式を見て、誰かが自らにくくりつけられた枷を捨て去った、その瞬間を見たような清々しさを感じました。

 

去年の夏、スーツ発見より前の話、新卒で入った会社を数か月で退社しました。

元々就職したかったわけではなく、大学時代に創作分野で仕事を得るようなことが出来なかったので、大学終了間近に急いで就活を始め、なんとか入社できたという感じです。

 

古めの社風と圧強めの上司にメンタルをぶち壊され、昼ご飯を食べに行った定食屋の中で涙を抑えることが出来なかったのを覚えています。

 

そんな感じで秒速退職をキメた後、一週間ほど「自分は何をして生きていきたいのか」を真剣に考えました。僕がそれまで行ってきた創作活動は、小説執筆、漫画執筆、イラスト制作の三つでした。しかしそのそれぞれにおいて、挫折を味わってきました。

その時になって思ったのは、大学時代はとにかく、学生の間に手に職つけたい、という思いが先行してしまい、速度優先で創作活動をしてしまっていました。

それによって好きだった小説執筆をやめ、苦しみながら漫画制作をしてしまったのは、惜しいことをしたなと思っています。嫌々ながら制作していても、漫画が上手くなることはありませんでした。

イラスト制作についても、仕事に繋げられるような知識を得るでもなく、Twitterでのバズりを狙うでもなく、中途半端なことばかりしていました。

 

しかし、無職になったまっさらな状態で「何をやりたいのか」を今一度考えた時に、「ゲームを作ってみたい」という思いが生まれました。

そもそも大学時代はスピード優先で小説を書くことをやめたので、ゲーム制作なんて気の長い話は思いつきさえしませんでした。しかし考えてみれば、幼いころから漫画っ子というよりはゲームっ子でしたし、ゲーム好きが高じて過去に何度かRPGツクールを弄ったこともありました。

 

しかしここでも自分の、即・実利に繋げたがるような思いが働き、一般向けゲーム制作ではなくアダルトゲーム制作で一山当てられないか、という思考になってしまっていました。

アダルトゲーム制作は楽しかったですし、結構な数の人に買っていただけました。ただ、生活できるレベルではありません。バイトをしつつ、空き時間でアダルトゲーム制作をする日々が半年ほど続きました。

そのうち、アダルトゲーム制作も辛くなってきました。「一般向けゲームを作りたい、アダルト部分じゃなくゲーム部分に注力したい」という思いに押しつぶされそうになっていました。

 

そんなこんなで、自分の中である程度見切りをつけ、今は一般向けゲームの制作をしています。

 

ただ、金銭面の厳しさは変わらず。これからどうしようという中で、現在勤めているバイト先から、契約社員にならないか、という話を貰いました。

 

昨今のコロナ情勢のなかで、そうした提案を頂けるのは喜ばしいことです。僕は運がいいと思います。仕事がなくて、食べるものさえ困っているような人たちが日本には大勢いると思います。

 

ただ、本心はとても、すごく、全面的に、社員にはなりたくないです。

今になって気づいたのは、僕は新卒時代に、自分を肯定するような自尊心を粉々に打ち砕かれていたのではないか、ということです。

僕は社員となって仕事を全うする自信がありません。そもそも社会人として周りの人に気を遣うことさえ無理です。ビジネスマナーも何も全てわからないです。人として何か欠けているとしか思えません。

バイトは気楽です。電話も取らなくていい。業務に対して負う責任は少ない。取引先とのやり取りもなし。誰でもできます。僕でも。

 

そんなことを毎日思いながら、そんな風に考えている甘ったれた自分自身が嫌になり、既に削れている自尊心ポイントをさらにすり減らしています。

 

しかしもう、社員になることは決定しました。

 

僕の夢は、子供の頃から変わっていません、自分の創作を多くの人に認めてもらい、創作活動で生きていくこと。

 

縮こまった自尊心がゼロになる日までは、とりあえず頑張ってみようかなと。思いませんが、今すぐ退職願を出すか部屋に引きこもって一生出てこないか遠出して山奥の果ての果てまで行くかしたい、ですが、そう自分に暗示をかけたいと思います。

 

いつかあの夏の日の光景のように、僕もスーツを脱ぎ捨てることが出来ると信じて。